技術は手段。大事なのはユーザーが喜ぶかどうか - 『Web製作者のためのUXデザインをはじめる本』を読んだ

最近、エンジニアとして仕事をしていて「ユーザーに本当に価値が届いているのか」 「本当に自分が作ったものでユーザーが喜んでいるのか」と疑問に思いながら 日々のタスクを忠実にこなしていたのだけれど、 チームにUX/UIデザイナーがJOINすることになり、UXも合わせてUI・画面のデザインを再デザインしてもらったところ、 今までのものとははるかにユーザーに寄り添ったものになっていくのを目の当たりにした。
これまでのものは、ディレクターからのふんわりとした要件をエンジニアが ポイントを抑えつつ試行錯誤しながら画面設計も含めて実装に落とし込んでいたのだけれど、 アクティブなユーザーがなかなか増えていかない。
機能を作った自分は、「とりあえずタスクが消化されたし問題があればあとで改善すればいいか」としてそこで達成感だけ味わって後は塩漬け。 そうやっていつまでも改善されていかない。
このやり方でいいものかと思っていた矢先、上記の改善を目の当たりにしてカルチャーショック。

サービスをサービス足らしめるのは技術ではないんだな、と納得した。
あくまで技術というのは実現するためのサポート・手段でしかない。そうであるならエンジニアってWeb開発における主体性ってあまりないんじゃないか? もちろん技術は楽しいものだけれど、作ったサービスで誰かを幸せにしたいって思うならエンジニアリングだけじゃダメなんじゃないか?
キラキラした最新技術だけを追っかけてそれで満足して本当に大事なものを見失ってないか?

ユーザーがサービスを利用したくなるような条件って何だろう?
UX、UI、デザイン。これらをもっと学ぶ必要があると思った。 そう思ったのが本書を手に取った次第。

uxdesign-book

本は大まかに以下のとおり。

1章 UX デザインとは?
2章 ユーザビリティ評価からはじめる
3章 プロトタイピングで設計を練り上げる
4章 ペルソナから画面までをシナリオで繋ぐ
5章 ユーザー調査を行う
6章 カスタマージャーニーマップで顧客体験を可視化する
7章 共感ペルソナによるユーザーモデリング
8章 UX デザインを組織に導入する

特に面白かったのは1章で、目からウロコだった。
UXの言葉の意味にギャップがある、というのはその通りで自分の周りでも「UX」は「ユーザビリティ」の意味でしか使われていない節がある。UXは

該当の製品・サービスを使っているときだけでなく、その前後の時間の中にもユーザー体験は拡がっている

というものであり、さらには他社サービスや個人的事情も一体となってUXを為している。 つまりサービスの画面・UIというのはUX全体における一部分でしかないのでUXの向上を目指すにはUIだけを良くするだけではなく、UXの主体であるユーザーの心理・ニーズを徹底的に学ばなければUXの向上は望めない。そのためにUXデザインには様々な手法(ユーザビリティ評価・プロトタイピング・構造化シナリオ・カスタマージャーニーマップ・ユーザーモデリング)があるということが腑に落ちた。
ただ、本書に指摘があるとおり、UXデザイン手法を取り入れることはけっこうハードルが高いような気がしている。 UXデザインは新しい手法を導入するだけでなく、新しいプロセスと新しい価値判断の導入が必須であり、既存のフローを変更する必要があるため抵抗がある人はありそう。また真面目にUXデザインをすると「そもそもの前提」もひっくり返す可能性があるため場合によってはステークホルダーの顰蹙も買いかねない。文化の下地がなければこれはつらい。
以前、UXのコンサルティングをするとある会社の方とお話をする機会があったのだけれど、しきりに組織構造や組織文化について気にしていたのは、UXデザインの成否は組織構造・組織文化に強く影響されるから、という理由があるからなんだなと納得できた。

なお、この本のスタンスはUXデザインの下地がない組織にUXデザインができるようボトムアップで改善していく、というスタンスなのでそこは非常に参考になる。 こういうスタンスを取っているくらいだから、まだまだ正しい意味で「UX」を理解している人は少ないんだろうなぁ、と思った。
UXって言葉を聞いたら正しい意味の「UX」なのか、「ユーザビリティ」という意味合いで使っているのか、確認した上で話をしないと話がズレそう。

本書に記載されたやり方が自分の関わるサービスに本当に有効なのかどうかはわからないけれど、これまでのやり方でうまく行かなかったのだから、UXデザイン手法を取り入れていきたい。

最後にひとつだけちょっと残念なところがあって、本の表紙の絵をみると「1. 基本」から「8. 組織導入」とあるんだけれど、 そのうちの「4. ユーザー調査」「5. 構造化シナリオ」とあるけれど、目次をみるかぎり、4章が構造化シナリオの話で5章がユーザー調査となっている。 おそらく表紙の絵が間違っているかと思う。でもそこくらいしか残念なとこは見当たらなかったくらい良い本だった。 本書の想定読者としてWebデザイナーを第一のペルソナとしているけれども、エンジニアこそ読んでほしい。いやまぁチーム全員が読んでほしいなぁ。できれば全章読んでほしいけど少なくとも1章を読むだけでも価値は十分ある。